2017年10月31日火曜日

犬トレ記ー2017/11(CGCA)



 犬トレ記(今日は街中)。

 ツケ歩きをしながら、変な床(つるつるの床や地下鉄の通風孔みたいな所)、変な音(大型バイク、雄叫びを上げる若者の群れ)、変な状況(高速エレベーター、全員ツケで密接しながらパック一団になって移動するetc)など、ベースは今までにやってきたこと+刺激のレベルを上げていく、という事をやっていました。なんかこれ最終的にワシントンDC市街でテストとかすることになりそうな気がする。


 
 上の写真は回転扉に犬を通している所です。がんばってるのはサービスドッグ(介助犬)候補生のサムです。インストラクターによると、介助犬やセラピー犬と一緒に回転扉を通るとか、エスカレーターに乗るとかと言った状況は現在では非常に稀で、こういう練習は一見無意味なように見えますが、犬に、特殊な状況下をハンドラーと一緒にクリアできたという自信と、日常世界にあるストレスに対応していける精神力を、練習によって身に付けさせていくこと自体がとてもだいじだということでした。コディと、ハンガリアン・クーヴァースのザックは残念ながら体が大きすぎて回転扉に入れなかったのでこの練習はスキップ(「ビッグボーイズはしなくて良い」とまとめられていた)。

 今日面白いと思った事は、犬が何かいいことをした時に出す合図が皆それぞれ違うんだな、という点です。短く高い声で「YES」とか「GOOD」だけという人もいれば、「Good Boy」と、撫でたりおやつをあげるところまでがセットになっている人もいるし、このクラスのインストラクターが今自分でトレーニングしている犬には、無言で素早く頷く事が、成功の合図だそうです。この犬は聴覚過敏のある自閉症児の介助犬になると聞いて「なるほど~~~」と思いました。ニーズにあわせて、犬のスキルもさまざまなんだなと分かりました。




帰り道。「もっとなんかやろうよ~~」という雰囲気


 ツケ歩き(ヒール・ウォーク)の最中は、他の犬や人に挨拶したり、電柱の匂いを嗅いだり、一切しないきまりです。まさに言うはやすし・行うはきよし。犬は匂いを嗅ぐのが仕事、匂いを嗅ぐことまでやめさせて非道い、と思う人もいるかも知れませんが、犬にとっての「ヒール」は作業で、ON・OFFのスイッチがあります。コディも「OFF」で思う存分匂いを嗅ぐ事が出来る時間もとってるので、バランスが取れているかな。

 しかしながら、犬が「匂いを嗅ぐことを意識的にやめる」という事が可能になると、街中を歩くことがおもしろいくらい楽になることを発見しました。いわゆる散歩の大変さのひとつは、犬自身が「匂いを嗅ぎたい」という衝動をコントロールするのが非常に難しい、という所に端を発してる事も多いんだと、改めて分かりました。コディはこの特定の場所では上手にツケが出来ますが、また新しい場所に行ったら、ツケはガタガタになるでしょう。儚い存在です。

 ツケはまた、うちの犬の場合、年齢とともに少しずつうまくなってきているように思います。コディは(あたりまえですが)電柱の匂いなどが大好きで、ヒール中も一瞬魅かれるのですが、気が逸れ始めた時点でタイミングよく「ヒール」と言い直すと、自分でがんばって鼻先を私の方へ持って来ることが増えてきました(感動)。シェパ―ドはこういう時、比較的ポーカーフェイスなので分かりにくいけど、最近ヒールが出来て褒めるとしっぽを振るようになったので、イヌの方も「難しいこと」が出来るようになってどうも喜んでいるらしい、ということは確かです。



2017年10月19日木曜日

シェパードをアダプトすること


 散歩中、犬好きの人とすれ違って話しかけられ、その人が以前ボランティアをしていたというミネソタのレスキューグループの話になりました。会話の中でその人は、「私は『純血犬のブリーダー』という職業、趣味をサポートしない!不用品として捨てられる犬がこんなにも多くいるのに。」と話していたので、ブリーダーの所から来た犬を飼っている私は若干居心地の悪い思いをしたのですが、実はこういった経験は、今までにも何回かあります。

 アメリカでは「犬をシェルターからもらう」という事がかなり社会に浸透してきていて、本当に様々な取り組みがされています。私がよく読んでいる犬のウェブマガジンでも、こんなふうに「Second Chance Movement」等と銘打って、たとえばこのプロジェクトのページをスクロールしていくと、下の方には愛犬がシェルターから来たことを表明する様々なグッズが販売されていて、売上が保護団体等に寄付されるという仕組みになってたりします。






 なかなかファッショナブルだし、メッセージも、犬好きだったら、思わず「いいな!」となりそうな感じ(自分だったら、グレーのシャツに翼の生えたロゴのやつがいいですね)。けれどもこれは、愛犬をシェルターやレスキューから迎えた人、慈善活動に寄与した人だけが着られる言わば「選ばれた者の服」であり、身寄りのない犬を助けるという行為のブランディングが、非常に上手に出来ていると思います。


 私が犬を飼う時「シェルターから迎える」という選択肢がなかったのは、長い長い(ほとんど2年に及ぶ)選考の結果、自分の用意できる環境に合ったシェパードを飼おうと考えていた私にとって、また、これから乳幼児が家族に加わるという状況を踏まえて、「シェルターはシェパード(系の犬)をもらってくる場所として最適ではない」と、熟考に熟考を重ね、判断したためです。


たまたま通りかかった、地域の里親会にて。
写真のこの方はとても上手に子犬をハンドリングしていた。


 まず、牧羊犬系の犬全般に言えることですが、彼らは記憶力にとても優れ、作業欲求が強いという点が挙げられます。これは犬種の美点ですが、こういうタイプの犬が見知らぬ一般家庭→シェルター→レスキューを経てくると考えると、この美点が裏目に出る可能性があります。

 不幸にして飼っているシェパードを手放さねばならなくなった家庭で、それまでどんな風に犬が飼われていたかが謎なのは、貰い手にとっては大きく不利な点です。もちろん大多数の犬は、必要最低限のケアはしてもらえていると思うけれども、たとえば基本的なしつけが分からないとか、他の人や犬と遊ぶ時の手加減がわからない、トリミングを全く受け付けない、などは保護された犬の間で比較的よく見るパターンです。ネグレクトや、日常的に叩かれたり蹴られたりのしつけ等、虐待を受けている可能性もあります。

 また一般の人からすると盲点なのですが、レスキュー等の保護団体に引き出された後も、犬達がきちんとした扱いを受けられているとは限らないです。自分のバイト先(メインにハイエンド犬用品と冷凍餌・プレミアムフードを扱っている)でも、レスキューグループと協力して里親会などを行っていると、「レスキューグループの人も本当にさまざまである」という感想を持ちます。

 人格的に素晴らしい人もたくさんいますが、一方で感情的な目でしか犬を見られない人、人対人のコミュニケーションが下手な人がいます。どう見ても経験が浅い人、トレーニングへの意識が低い人、古いトレーニング法に固執している人も、結構多く見かけます。いつも金銭的にギリギリになっているグループもあります。そういうところは犬が過密になっていたりして、世話が行き届かず、人手も足りず、汚れた子犬を店で洗ってあげたこともあります。里親イベント等の日になると、ごった返した人々の中でもみくちゃになり、吠え続ける子犬を手荒に扱うボランティアを見かけたこともあります。これなどは、あるべき姿とはかけ離れた環境だと思いました。

 シェパードは特に学習能力が高いので、しつけにすぐに反応するかわりに、悪い癖を身に付けるのも早いものです。飼い主に対する高い忠誠心もアダとなり、新しいオーナーを心から信じてついていくまでに長い時間を要する個体もいます。どのような出自か分からない彼らが、どういう人の手を介してくるのか(=どういう学習をしてくるのか)不明、選べないという事は、非常に大きなリスクと言えます。


クレートの中で、おりこうにしている兄弟犬。コリーのミックスかな。
とてもかわいい。

 そして、健康の問題があります。

 現代のジャーマンシェパードのジーンプールには、諸説あるけれどおよそ150の遺伝性疾患を引き起こす問題遺伝子があるとされ、計画的な繁殖と、生まれた子犬の健康状態の経年推移を観察する事が、近年特に重要視されています。

 ジャーマンシェパードはアメリカでは非常にポピュラーな犬種で(Rレトリーバーについで全米第二位。AKC-2017)、毎年沢山の子犬が産まれています。ということはそれに比例して、いわゆる「バックヤード・ブリーディング」の率も高いと、容易に想像することができます。Gシェパのバックヤード・ブリーディングは、シェパファンの間ではすごく賛否両論のある話題で、ひとつの大きな理由が、この生まれてくる子犬の健康への大きな不安、犬質のばらつきにあると言えます。

 コディのシェパピ仲間にも、バックヤード出身の子が何頭かいましたが、気質的にも健康的にも全く問題なく育っていく犬もいました(※)。一方、若くして神経系の病気を発症し、それがもとで階段から落ちたり脱臼を繰り返す個体、ある日歩き方がおかしいと診察に行ったら、若いのに股関節形成不全と診断がおりてしまったりとか、日常生活に支障をきたすレベルのシャイさであるとか、また体は健康そのものだけれど、成犬のオスなのに20キロいかない犬になったとか、そういった出来事が実際に身近なケースとしてありました。(※…厳密には、その犬の一生を通した健康状態を見なければいけないわけですから、最初の数年間だけを見て「この犬は健康だ」という事も、ムリがあるわけですが。)

 犬の世界は広大なので、犬種スタンダードを重視しなくとも、目的を持ってクオリティの高い犬を生み出している個人繁殖家も存在します。しかしそのような人々は、バックヤードブリーダーの総数と照らし合わせれば極めて少数であり、総合的に見れば、犬と飼い主の人生に苦痛と深刻な影響を及ぼすかもしれないバックヤード・ブリーディングと、そこから来る犬には非常に高い潜在的リスクがあると言えます。


 だからと言って、ブリーダーを十把一からげにいけないものとするのも、誤っていると感じます。ブリーダーの正しい像とは、「犬種をよりよくしたい」「責任感ある人々に、犬種と言うアートをつないでいきたい」と、日々時間とお金を惜しみなく注ぎ、勉強やスポーツ、ショーイングに取り組む姿勢を持った人々で、そんな彼らは積極的に支持されていくべきだと感じます。私が思うに、犬のレゾンデートルとは「作業能力」であり、作業能力の追及の結果生まれる「犬種」とは、犬と人との文化史のなかで重要な概念であり続ける、と考えるためです。だから、一概に「ブリーダーだからといって、サポートしない」という、冒頭の人の様な立ち位置もまた、マクロな視点では犬の世界のためにならないのではないかと、私は思います。

 「犬の作業」とは、なにも警察犬や麻薬探知犬みたいな、高度なものばかりとは限りません。「よき家庭のコンパニオンである」という事も、立派な技能であり、そうであることは犬にとっての「作業」になり得ます。

 自分の犬がものを壊したり、他の犬に吠えたりする心配なく、安心してどこへでも連れて行くことが出来るか。リードを引っ張らず、楽しく散歩をさせてくれるか。子供やお年寄りと適切に関わるか。何らかの理由でリードが切れたり、手から離れても、呼べば必ず戻って来るか。知らない犬や人にも、落ち着いて挨拶できるか。道に落ちているベーコンを「leave it」出来るか。細かい、なんてことないことのように聞こえるかもしれないけれど、「一緒に暮らしやすい犬」「よき家庭犬」が極めねばならない事ばかりです。優れた家庭犬に求められる技能とは、犬の本能とは逆行するタスクも多く、本能を駆使して行う作業よりもある意味困難なものも多いです。これらをどんな状況下でも安定して出来る「優良家庭犬」とは、良い素質を持った犬が、絶え間なく練習を繰り返した結果、至るところと言えます。

 少し脱線してしまいましたが、ここまで読み返してみて、もしそれでもシェルターからシェパード(系の犬)のアダプトをするとなったら、自分ならば ①自分の求めるラインの犬を増やしているブリーダーに里子にもらえる犬がいないか聞いてみる → ②シェパード専門のレスキューに問い合わせ、できれば若い犬を探す、のがいいんじゃないかなと考えました。犬種専門のレスキューは、犬がちゃんと扱ってもらえている可能性が高いし、知識が豊富な先輩とつながりが出来て、知恵を授けてもらえる可能性が高い事が最大のメリットです。

 とりとめもなくいろいろ書いてきましたが、将来的に娘がある程度大きくなったら、ファンドレイズの手伝い等の形で、レスキューのシェパードと何らかの形で関われたらなあ、という気持ちもあります。とにかく犬って本当にいい生き物だなあ、と思う事が年々増えてきたから、その犬をとりまく私達人間のほうが頑固になったり、排他的になるのではなく、協力してより良いヒトーイヌ間の共存法を目指していけたらいい、と思います。